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カワサキZ1のクランクケース修理のお話し

北海道ツーリングでいつもお世話になっている釧路の「ヒストリー」(ライダーハウス&バイクショップ)のオーナーからオーバーホール中のZ1エンジンの修理依頼がありました.
なにやらクランクケースのボルトでクランクのメインベアリングを押さえているM8ネジが固着して折れてしまってエキストラクターでも抜けないというのと,スターター(セル)モーターの取り付け部が欠損しているということでした.

見てみないとできるかどうか分からないので取り合えず大阪まで送ってもらいチャレンジしてみる事にしました.

今回はそんなエンジンの修理のお話し.


※「ヒストリー」は現在札幌へ移転しております.



北海道の釧路から送られてきたカワサキZ-1の
クランクケース(アッパー側のみ)


折れているのはクラッチ側のM8ボルト.

クランクベアリングを保持しているボルトなので
高炭素鋼かクロモリ鋼のボルトが使われてると
思われますが,それでも折れてしまうとはよっぽど
なんでしょうね..

Zをいじる人の中にはオーバーホール時に全ての
ボルトを交換する人もおられるのはこんな経験を
しているからかもしれません.


穴があいているのはヒストリーのオーナーが
エクストラクターで抜こうとチャレンジためで,
エクストラクターの方が負けて破損してしまったそうです.

私も念のためチャレンジしたのですがご覧の通り
エキストラクターが火花を飛ばしながら破断して
しまいました.

本当に手ごわい・・・.




あらら・・・,折れた先端が中に残っちゃったよ.

ヒストリーでも加熱されたそうですがビクともしなかったとの
ことですが,これほど固着が激しいと加熱しない事には
抜けないだろう判断し,バーナーをダブルにして加熱する
ことにしました.

ただし,エキストラクターが折れて中に残ってしまったので,
新たにエキストラクターを入れることができず悩んだ末に
金属棒(ここでは六角レンチを使用)を折れて残った
ボルトに溶接し,加熱しながら抜き取る事にしました.

よくみると六角レンチが付いてるのが分かると思います.
抜き取ったボルト.

加熱しながら緩める方向にテンションをかけていくと
徐々に回り始めるのですがバーナーを少しでも離して
温度を下げると再び固着してしまいます.

本当にひどい状態でした.


以前誰が組んだのかが気になる所ですが,一度も
ばらした事の無いエンジンということなのでこの
ネジロックも純正指定品なのでしょうか?

まあ抜けて何よりでした.



お次はスターター(セル)モーターの台座部.

ご覧の通り向って右側が根元から欠損しています.

欠損した理由は聞いていないのですが,どちらの
ネジ部を見ても金色をしていることから,ネジロック材を
塗布してあった可能性があり,そのため緩める際に
欠けたのかもしれません.

何れにしろ,いくら頑丈なZのエンジンといえど
クランクケースやシリンダヘッドなどは金属疲労が
かなり進んでいて,すごくもろくなっています.

最近,Zのエンジンって本当に丈夫なの?って
思ってしまいます.



修復方法ですが,旋盤で丸棒にネジ穴加工した
円筒物(カラーみたいなモノ)を溶接しようと
考えたのですが,アルゴン溶接機のトーチが入るほど
スペースがないため,肉盛り溶接後にネジ穴加工
することにしました.


溶接部が汚れていたり酸化していると溶接する際に
不純物が混ざって巣が出来るなど溶接品質が低下
してしまうので除去します.

いきなり溶接しようとしても母材(クランクケース)が
大きいく熱が逃げて溶けないのでバーナーで
予備過熱を行います.


TIG溶接でアルミを盛って行きます.

ハイトゲージを使い残った方の台座から
正規の高さを測定します.


溶接盛りしたところに高さをケガキます.


我が家にはフライス盤がないのでちょっと強引に
ですがボール盤にエンドミルをつけて溶接盛りした
ところの頭を切削します.


新たに作る台座部のネジ穴位置を出すのに手持ちの
GPz1100(空冷)のセルモーターを治具として
利用します.

セルモーターの取り付け部の穴径が約φ7mm
なのでφ6mmのドリルのキリにアルミテープを
巻いてφ7mmにします.

わざわざφ6mmにアルミテープを巻くのは後述する
理由があってのことです.



セルモーターを所定の位置に取り付けて,
アルミテープを貼ったドリルのキリで肉盛り部に
新しい穴を開けます.

なお,アルミテープを貼っているため切りくずが
上手く排出されないのでセンターが出た時点で
アルミテープを全て剥がして所定の深さまで穴を
開けます.



肉盛りした所に新しいネジの下穴が開いた
ところです.

次は肉盛りした外形を仕上げます.

NCフライスなどがあれば綺麗な円筒形に
仕上げるのですが汎用機すらないのでどうしようか
作業前に一番悩みました.

通常はエアーリューターで整形する所なのですが,
所詮手仕上げなので仕上がりにも限界があります.

そこで今回は別な方法をとる事にしました.



ホールソーのセンターキリ(φ6mm)の代わりに
φ6mmのSUS棒を用意します.



センターキリがSUS棒になっています.


ボール盤に先ほどのホールソーをセットし肉盛り
したところのφ6mmの穴をガイドにして切削する
ことでブレることなくを円筒形に加工することができます.

φ6mmのドリルのキリにアルミテープを巻いたのは
ホールソーのセンター穴がφ6mmでセルモーターの
取り付け部の穴径がφ7mmだったためです.

またアルミテープを巻くことでセルモータの取り付け穴を
保護する事も出来るからです.



φ18mmのホールソーの内径がφ14mmなので
直径14mmの円筒ができました.

その後リューターで不要な肉盛り部を削り仕上げます.


溶接盛りで作った台座なのでネジ部の強度を
確保する為にヘリサートを入れます.

手作業でヘリサートタップを立てると,どうしても
斜めに入ってしまいやすいのでボール盤の垂直性を
利用してタップを立てます.

はい,出来上がりましたっ!!


大阪本店に復帰後初めての工作で,荷物を整理しながらの作業だったので不必要に時間がかかってしまいました.
ヒストリーのオーナーすみません!!

難しい仕事は悩む事も多いですが,それもまた楽しかったります.
またこんな仕事があれば連絡くださいね.

それではまた.



余談ですが・・・

引用:牧野フライス製作所カタログ

工作にも「三種の神器」ってのがあって(勝手に思っている?)それが旋盤,フライス盤,溶接機だったりします.

工作する上でこれらがあれば大抵のことができたりします.

今回の工作でもフライス盤があればと何度も思ってしまいました.

私の欲しいフライス盤が上の写真のモノ.

世界のマキノといわれるフライス盤一流メーカーで中古市場でも人気があり高値安定.

いつか手に入れてやろうとずっと思っていたりします.そのためにずっとしている「フライス盤貯金」

修理や工作をして得たお金を少しづつ貯めています.(お母ちゃんに怒られない為に!!)

もっとがんばるぞ〜


注記
これらの加工方法については必ずしも正しいものではなく,賛否両論あると思います.
特に加熱や溶接は歪みや硬化を伴いますので相応のリスクもあります.加工時には意識をしてワークに
接するようにしていますが未熟な点も多く,もしご意見がございましたら掲示板などで是非アドバイスを
お願いいたします.

このエンジンが廃棄されずに再び鼓動を刻むことを願っています.





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