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足すことはできても引くことのできない
          CDプレーヤーの修理のお話 その1



今から1年半ほど前のこと.

ある日,コタツの上に封筒が置いてあった.
中には蓋の壊れた見慣れないポータブルCDプレーヤーが入っていた.

眺めていると同居する姉がやって来てそのCDプレーヤーの話を聞かしてくれた.


それは姉の友達から預かったものだった.
その方にはお姉さんが居られたのだが数年前に病気で亡くなられ,旦那さんが体が不自由だったこともあり,
小学生だったお子さんを引き取って育てられていた.

このCDプレーヤーはお姉さんが入院中に使われていたもので,女の子にとっては唯一,お母さんが使って
いた形見の品だった.

使って故障したらいけないと思い,その子は使わずに大切に持っているだけだった.
そんなある日初めて聞こうとしたとき不運にも落してしまい壊してしまったそうだ.


悲しみのあまりその子は泣きじゃくるばかり. 

何とかしてあげたくて姉を通じて私の元にやってきた.


「聴けなくてもいいから,せめてCDの蓋だけでも閉まるようにしてあげて欲しい.」そう言われたそうだった.


CDプレーヤーを預かるほんの数ヶ月前に私は母を癌で亡くした.
姉のその友達は遠く離れた病院に母を何度も見舞いに来てくださった. 自宅で寝たきりになってからも,
それまでと同じように接してくださり何度も母の様子を見に来てくださった.
気弱になっている私たちにそのことがどれほど嬉しく心の支えとなったことか.


母の死で,命の果敢なさや身近な人が生きていてくれることの有難さを嫌という程思い知らされた.
私よりずっと幼い子供がそんな悲しい思いに耐え,大切にしていた形見の品まで壊れて悲しんでいるという
ことを知ったとき,何としても直さなければならないと思った.




このCDプレーヤーにはその全てに,その女の子とお母さんの思いが詰まっている.

だから単純に壊れた部品を交換するのではなく,思いが詰まった部品を一つでも欠けさすことのないように
修理することが私がしなければならないことだと思った.



「足すことはできても,引くことは出来ない」


今回のお話はそんな思いのこもったCDプレーヤーの修理のお話です.





私の元にやってきたポータブルCDプレーヤー


落した衝撃で蓋が破損し外れてしまっている.



(ケンウッド DPC-X321)

小さな欠片(かけら)が大切に添えられていた.

状態を確認しながら分解していく.

蓋だけでも閉められればいいと言われたが,
できるならば元のようにちゃんと音楽が聴ける
ようにしてあげたい.


先ずはこの状態でCDが再生できるかまずテスト
してたが幸いなことに正常に機能している.

残るは蓋の開閉がちゃんと出来るかに掛かって
いる.



万が一の場合に備えオークションで同型の
CDプレーヤーが無いか平行して検索して
おいた.

こちらがCD面側のケース中蓋.

蓋の蝶番(ちょうつがい)の右側が破損して
いる.

拡大してみると蝶番のピンの部分が割れて
広がってしまっているのが分かると思う.

薄皮一枚でつながっていたため,触ると
ポロリと取れた.

本来この部分はCDの蓋を跳ね上げる
ためのスプリングが仕舞い込んである.

割れたピンの部分にそのスプリングの軸の
部分が入り,中蓋と底蓋で挟みこむ構造に
なっている.
割れた部分に出来たバリやカエリ,周囲の
塗装をデザインカッターで丁寧に剥がしていく.

プラスチックの補修なので,いつものように
プラリペアを使う.


こいつは樹脂の粉と揮発性溶剤からなる
接着剤で,粉をまぶしてそれに溶剤を垂らして
粉を溶かし接着する仕組み.


型に粉を詰めて溶剤を流し込むと造形も
できるので便利な商品である.

ただ接着するモノが小さかったり,材質に
よっては,上手く付かなかったこともあるので
過信は禁物である..

欠片を元の位置に接着するために,同じ
メーカーから出ている「かたどりくん」を
使って欠片を固定する.

接着面は広いに越したことが無い.

組み立てた際に他と干渉しないように注意し
つつ接着面を広く取るように中蓋を立てて粉を
詰め溶剤を流し込む.





乾燥させる間,CDの蓋の方の修理を行う.

CDの蓋側の蝶番の部分も欠けていた.


プラリペアで補修するためデザインカッターで
丁寧に下地調整を行う.

封筒に一緒に入っていた欠片はこの部分の
ものだった.


「かたどりくん」を使い欠片を本来の位置に固定
する.


欠損部分はプラリペアで造型していく.




この状態で樹脂の粉と溶剤を注入する.

「かたどりくん」を取り除くと,こんな野暮ったい
形が出来上がる.

反対側から見た様子.


この中に一緒に添えられていた欠片も
入っている.

リューターとヤスリを使い本来の形に
仕上げていく.

大まかな形が出来てきた.



欠片が元の位置に入っているのが分かって
いただけるだろうか.

蝶番の部分なので開け閉めの度に
ストレスが加わる.


接着強度を少しでも上げるために
V字カットを入れて母材との接着面積を
増やす.


再び樹脂の粉と溶剤を流し込む.

本体に空組みし様子を見る.


スムーズに開閉するか,開いた際の左右の
バランスは大丈夫か.

何度も何度も微調整を繰り返し仕上げていく.

整形できたと思ったのでラッカー塗料で同色に
塗って仕上げを行う.

スプリングをセットし本組みして様子をみる.


自分では完成したと思ったが,スプリングでの
開閉がスムーズに行かない.


本来,開閉ボタンを押すとパッと開くはずが,
ぬめ〜っと開く.


こんな仕上がりで返すわけには行かない.





長くなってきたので続きは

「足すことは出来ても引くことの出来ないCDプレーヤーの修理のお話 その2」で.







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